ポドルスキの一発レッド、札幌の3点目は妥当なのか?2018Jリーグ第25節:札幌vs神戸
2018シーズンJリーグ第25節:コンサドーレ札幌vsヴィッセル神戸は、とても考えさせられる判定がありましたので検証していきたいと思います。
\まさかの一発退場…🔴/
— Goal Japan (@GoalJP_Official) September 1, 2018
明治安田生命 #J1リーグ 第25節、#北海道コンサドーレ札幌×#ヴィッセル神戸 の一戦。
前半終了間際に神戸の #ポドルスキ が足裏タックルによりレッドカードを受ける🗣 pic.twitter.com/QkAb1qXkFH
ポドルスキのタックルは一発退場か?
上記ツイート内の動画の通り、ヴィッセル神戸のルーカス・ポドルスキ選手のタックルがレッドカードを受けました。
実況や解説の方の雰囲気からは「え?これがレッドカードになっちゃうの?」という疑問が浮かんでいるのがわかります。
事実、私のTLに流れてくる判定に対する評価も、レッドカードは妥当ではなくイエローカードだという意見が多数派でした。
ポドルスキの1発赤は厳しいなあ、、、
— 大迫はんぱないbot (@osako_hanpa) September 1, 2018
私の結論としては「Jリーグなら妥当、他国のリーグや大会ならせいぜいイエローであり、私の理想からイエローであるべき」です。
これは見解が分かれるのではないでしょうか?
レイトタックルについてのJFAのスタンダードと著しく不正なプレー
動画の2分から3分20秒くらいの2つのプレーが参考になります。
競技規則12条 ファウルと不正行為
退場となる反則
著しく不正なプレー
相手競技者の安全を脅かすタックルまたは挑むこと、また過剰な力や粗暴な行為を加えた場合、著しく不正なプレーを犯したことで罰せられなければならない。いかなる競技者もボールに挑むときに、過剰な力や相手競技者の安全を脅かす方法で、相手競技者に対し片足もしくは両足を使って前、横、あるいは後ろから突進した場合、著しく不正なプレーを犯したことになる。
「今回は過剰な力や相手競技者の安全を脅かす方法」であるかどうかの事実認定の問題となります。これは言葉遊びでもなんでもなく、ルールに従って判断するということは、まずは文言解釈から始まるというのが基本です。
JFAスタンダードとポドルスキのタックルの比較
1つ目のプレーについては下図のように評価されています。
「スピードを伴っている」という時点で、既に過剰な力があるとされています。
このプレーでは守備側選手(スライディングしてる選手)がボールに先に触れていますが、勢いがある時点で先に触れていてもダメというわけです。
また、足裏を見せていることやスライディング後に相手の軸足に当たるようなタックルとなっていることから、相手選手の安全を脅かしていると言えます。
ポドルスキ選手の場合はこれに比して、「勢い」が余り無いと言えますが、ボールに触れずに相手選手の足に足裏を当ててしまったという違いがあります。
2つ目のプレーについては下図のように評価されています。
今回のポドルスキ選手と同じような勢いですが、相手の正面からスライディングしているという点が異なります。後はボールに先に触れていないという点で、かなり近いケースだと言えるでしょう。
正面からのスライディングの場合、仮にボールに先に触れていても、足を伸ばしていれば相手の身体に接触することはかなりの高確率で発生します。足裏を見せていることと相俟って、これはスピードによっては相手選手の安全を脅かしていると言えるでしょう。
横からのスライディングよりは、より「著しく不正」と評価されやすくなると思います。
こうしてみると、ポドルスキ選手のタックルは、Jリーグであれば著しく不正な行為として退場となってもやむを得ないものなのだと思います。
ただ、私はあの程度の「勢い」はサッカー競技の要素として許容範囲にするべきではないか、と思ってしまいます。これは危険な考えなのでしょうか?
競技規則とサッカー競技の精神の相克
ところで、レフェリーが判定をするにあたって考慮するのは、競技規則の文言だけではありません。
競技規則5条 主審
2. 主審の決定
決定は、主審が競技規則および「サッカー競技の精神」に従ってその能力の最大を尽くして下し、適切な措置をとるために競技規則の枠組の範囲で与えられた裁量権を有する主審の見解に基づくものである。
主審が競技規則を守るというのは分かります。
でも、「サッカー競技の精神」って何ぞや?それらしいものはサッカー競技規則の最初の方にありますが。
また、2016/2017競技規則質問回答集には以下のようにあります。
それらしいものはありますが、「競技の精神を守りましょう」と言っているだけでその中身の説明は無いですね。
ということで、ここからは私の個人的な整理の仕方の披歴になりますが、後半の判定についての検討にも繋がるところなので書きます。
サッカー競技には以下のような精神が前提として存在していると思います。
- 公平・公正
- 選手の安全
- 競技の円滑な進行
- リスペクト
暫定的に4つ示しましたが、この内、1は「フェアプレー精神」という用語で馴染み深いと思います。
2や3は競技規則を読むと、「そうだよなぁ」と私が思ったものです。
競技の円滑な進行は遅延行為に対する警告やGKのボール保持時間が制限されていることなど、競技規則上からもうかがえますし、普段運営しているどのカテゴリのリーグであってもテキパキとしなきゃいけないという暗黙の了解はあると思います。
選手の安全に配慮の無いプレーにはより厳しいファウルが与えられる規定ぶりになっていますし、例えばファウルで相手が痛がった時に先にカードを出すよりも痛がっている選手の容態の確認を優先するなど運用レベルでも既に行われているところから伺えるなと思います。
そう考えると、ポドルスキ選手のスライディングの状況で見過ごせないのは、雨が降っていてピッチが濡れていたという点です。滑りやすく減速しないので相手選手へのタックルによる危険度は割増で考えるというのは、サッカー競技の精神に基づく一つの方針だと思います。
「5:ファイト」というサッカー競技の精神はあるのか?
これで普通にスローインで再開されるのがプレミアっぽい pic.twitter.com/CmKtqHl7zD
— リベロの河童 (@55ft) August 26, 2017
上記ツイートの動画ではイングランドのプレミアリーグのプレーが紹介されています。
これ、カードが出てないどころかノーファウルです。
普段プレミアリーグを見ている人からしても「これはちょっと」と思うプレーですが。
どうも、プレミアリーグではこういう「ファイト」を大切にしているようなんですよね。プレミアってCKの場面でも両手で押したり抱きかかえて倒したりって日常茶飯事じゃないですか?
「それもフットボールの一部だ」と思っている節さえあります。
イングランドほどではないにしろ、欧州やアメリカ大陸のリーグではJリーグよりは「ファイト」を奨励する雰囲気があり、それが判定に表れているのではないでしょうか?
振り返ってみれば日本でさえ、競技規則の文言に厳密に従えばファウルであるハズのものをファウルとは考えていない場合があるじゃないですか。「ファイト」の精神が判定にどれだけ強く反映されるか否かによって、判断が変ってくるのではないでしょうか?
ということで、ポドルスキ選手のプレーはファイトを重んじる(と言えるして)プレミアリーグではファウルだけれどもカードは出ない、イエローに留まるということになるだろうと多くの人が予測するでしょう。
判定についての世界的流れ
「昔のサッカー」を知っている人からすれば、現代のサッカーは「ファイト」よりも「選手の安全」に重きを置いている流れにあるなぁと感じるはずです。
マラドーナがバルサに居た頃、めちゃくちゃ足を狙った後方からのタックルでカードが出ないこともあったように、世界的にファウルの基準が時代ごとに変わってきているというのは事実でしょう。
今回のポドルスキ選手のレッドカードも、10年前ならほぼ100%退場ではなかったと思います。リーグの基準に加え、世界的な判定の基準の変化が加わることで、過渡期には違和感を覚えさせる場面というのがどうしても発生してしまうのでしょう。
コンサドーレ札幌の3点目のフリーキック
札幌のFKの場面、神戸の選手が壁を作りG Kが壁に指示している最中で両ポストでまだ札幌の選手が給水しているのに審判にいきなりピッて笛鳴らされプレーはじめられるってそんなの見たことない!
— Pinky-.-13⚽ (@masato_4580) September 1, 2018
札幌の選手は何も悪くない!
悪いのは審判のジャッジだ!
これトラウマになるぞ!
今日は自分珍しく激怒。 pic.twitter.com/aiY6OwpluI
札幌の3点目は物議を醸しています。
フリーキックの方法として競技規則上はOKだが
フリーキックの開始要件は①ボールが制止していること、②ボールが明らかに動いたとき又は自陣PA外に出たとき、だけです。相手競技者が9.15m離れることが開始要件かどうか争いがあるのかしりませんが。
いずれにしても、今回はフリーキックを開始するのに競技規則上はなんらの障害もありません。
しかし、神戸の選手が壁を作っている最中に笛が鳴るという場面は見たことがありません。なお、そもそも笛を鳴らしていないので意表をついてフリーキックを蹴った場面ではなく、主審の笛で時計は止まっていたという状況です。
競技の精神:公平な裁定だろうか?競技の円滑な進行を採ったのか?
この場面、「神戸の選手の壁の構築が遅い、間抜けだ」という価値判断も可能なように思います。主審が壁を下げてから笛を鳴らすまでに少なくとも10秒はありましたから。
また、壁を永遠に作らなければプレーが再開できないとなると、明らかに「競技の円滑な進行」を妨げることになるので、どこかで「打ち切り」をしなければならないでしょう。
主審はそのような判断をしたのかもしれません。
ただ、やはり見ている側としては「公平じゃないのではないか?」と思ってしまいます。
上記のサッカー競技規則の画像ではサッカーの重要な基盤は「公平・公正」とあるように、競技の円滑な進行よりも公平さの方がより上位に来るべき価値基準ではないでしょうか。
そうすると、あの場面では主審は「始めるよ」と声を出したり、「笛をくわえる」「腕をゴール方向に指し示してから少し後に笛を鳴らす」といったような予備動作をするべきだったのかもしれません。
この場面、主審の動きを見ると腕を指し示すこともなく【後ろに下がりながら止まらずに】笛を鳴らしています。このあたりが「唐突感」の原因ではないかと思います。
まとめ
判定の根拠には競技規則があり、その運用にあたってはJFAの基準があり、更には予測としてサッカー競技の精神があるのではないか、ということで札幌vs神戸の判定について検討してきました。
思い思いの価値判断もいいですが、根拠や基準を知り、そこから考えることで、議論の土壌が生まれます。そういう議論が日本サッカーをより強くしていくのだと信じて、ゴリゴリ考えていきたいと思います。
以上