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アジアカップ2019:日本vsイランのPKハンドのファウルは妥当か?

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アジアカップ2019@UAE準決勝の日本vsイラン

この試合でイランの選手にハンドがあったとしてPKが取られました。

この判定についてどう考えるべきかを競技規則に照らして考察します。

結論から言えば「今回の判定は正当方向だが判断は分かれ得る」と言えるでしょう。

競技規則上のハンドの考慮要素

サッカー競技規則2018/2019

ボールを手または腕で扱う

競技者が手または腕を用いて意図的にボールに触れる行為はボールを手で扱う反則である。

次のことを考慮しなければならない:

ボールの方向への手や腕の動き(ボールが手や腕の方向に動いているのではなく)

・相手競技者とボールの距離(予期していないボール)

・手や腕の位置だけで、反則とはみなされない。

以下略

競技規則には「意図的に」の判断要素としてこれしか書いてません。

この記述と実際に考慮されてるそれ以外の要素について以下の記事で再構成しました。

 結局のところ、考慮要素を同じ次元に整理すると以下のようになると言えます。

  • 手や腕の位置
  • ボールの方向への手や腕の動き
  • ボールを予期できたか

また、JFAはより細かい考慮をしています。

  • 腕が自然な位置にある⇒手や腕の位置
  • 近い距離からボールが蹴られている⇒ボールを予期できたか
  • ボールを避ける時間的な余裕が無い⇒ボールを予期できたか

さて、これらを前提にイランの選手の行為を見ていきましょう。

アジアカップのイランの選手の腕は「自然な位置」か?

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SNSを見ると「イランの選手の左腕はスライディング時のものとして自然であるから、これにハンドを取るのは間違いだ」という意見が視られます。

事実認定の話として「スライディング時のものとして自然だったか?」を考えます。

みなさん、どうですかね?これが「自然な腕の位置」に見えますか?

この腕のつき方では腕を痛めてしまいそうじゃないですかね?

普通はもっと肘を曲げるでしょう。

前腕全体で地面を捉えて衝撃を緩和させるはずです。

この選手のように肩関節を後方に動かして掌だけで地面をつく、というのは、どう考えても受傷可能性が高い行為です。こういうスライディングをまったくしないわけではありませんが、スライディングの基本形からは外れています。

天然芝だからいいものの、土でやったら危険でしょう。

よって、これを「自然な位置」と見るかはかなり疑わしいのではないでしょうか?

なお、右腕も不自然に広げており、こうした点も「意図的に」を推定する方向の事情として勘案されたのかもしれません。

考慮要素で重いのは「体側から離れているか否か」

上記記事でワールドカップで実際にハンドになった事例から考察しました。

その結果、『体側から腕が離れているか否かが重要な考慮要素であり、離れている場合は基本的には相手のプレーに対して「配慮がない」と推定される方向で運用されている』と結論づけました。

その前提だと、仮にスライディングの腕の位置が「自然」だとしても、それだけで腕にボールが当たったことを正当化することにはならない運用がされている現状では、イランの選手の行為にハンドの判定をした主審が間違いだと言い切ることはできないと言えます。

もちろん、競技規則には「腕の位置だけではファウルとしない」旨の考慮要素が書かれているので、具体的に見ていきます。

イランの選手のハンドは「意図的か」

  1. 腕は体側から離れている
  2. この場面でマイナスのグラウンダーのクロスを上げてくる可能性は類型的に予測できる
  3. よって、腕がボールに向かっているのではなくボールが腕に向かっていると言えるが、ボールが来る可能性のある場所に予め腕を置いているとも言える
  4. 仮にスライディングとして自然な動作であるとしても、上記のようなプレーに対してより配慮した位置に腕を構えることは可能(今回の腕の置き方でなければイランの選手の身体に危険が生じるというものではない)
  5. 距離は近く、ボールの速度もあるため「反応」するのは難しいが「予めその位置にボールが来ること」は十分に予測可能

こうして考えると今回ハンドのファウルを取ってPKとした判断は妥当と思われます。

まとめ:レフェリーによって判断は分かれ得る

もっとも、この動画の6分40秒以降のハンドの解説を見ると逆の感想になります。

上川氏は「ハンドとするには厳しい」と評価しています。同時に「間違いとは言い切れない」とも言っています。

今回とまったく同じシーンも違う主審なら異なる判定になったかもしれません。

また、スライディングをした選手の腕の形や置き所、身体との関係が今回と異なるものであれば、逆にファウルとするべきではないと断定することもあり得ると思います。

VARでハンドのファウルを取ることは多くなっているので、レフェリーの判断を助けるための補助的な考慮要素がもっと言及・発見されていけば良いと思います。

以上