オフサイドのアドバンテージは間違いか?
オフサイドの反則が起きて副審が旗を上げたが主審はアドバンテージを採用できるか?
結論から言うと、採用できます。
少なくとも競技規則上・ガイドライン上は妨げられていません。
ただし、以下の事情があるために「アドバンテージを採用しない」という運用をしていることがあります
- オフサイドの反則が起こった位置でアドバンテージとなる場面はほとんどないため、基本的にそのような場面は想定されていない
- この場合にアドバンテージをとると、予期せぬ問題が起こる可能性があるため、安全を期して副審の旗を採用することにしている
- 世の中で「オフサイドにはアドバンテージを取ることができないのではないか」という認識が広まっているため、それに従っている
私もオフサイドで副審が旗を上げてもアドバンテージを採用したことがあります。
ただ、私がここで「採用できまぁす!」と言ったところで、反論が想定されるので、それらを一つ一つ潰していきます。
競技規則の記載は?
現行の競技規則(2016--2017)を含め、2006-2007までさかのぼっても、「オフサイドにアドバンテージは適用されない」などとは書いてません。
なぜこのような認識が広まっているのかを考えると、オフサイドは普通のファウルとはちょっと違う特別なものという雰囲気が競技規則上も実際上もあったからだと思います。
現行の競技規則になる前は、オフサイドの反則後の再開位置は通常のファウルとは異なるものでしたし、副審が旗を上げることが常ですからね。
しかし、ルール上、副審が旗を上げていなくても主審がオフサイドをとることは妨げられていません。現実にはほぼ行われませんが。
また、副審が旗を上げたら、主審は必ずその旗の通りに笛を吹かなければならないということもありません。
オフサイドキャンセルの場合なんかそうですよね?
よくある説明に対する回答
1:「オフサイドは守備側選手に影響を与えた時点で発生する。だからその時点で笛を吹かなければならない。」
回答:上記の説明は意味不明です。
通常のファウルの場面を考えるとお分かりの通り、アドバンテージを採用するかどうかとファウルの発生時点は直接には関係しません。
2:「その後の状況を見てから笛を吹いてはいけない」
回答:これは、アドバンテージに関する理解が関係していると思います。
違反や反則が起きてからアドバンテージを採用するまでにある程度の時間が経過し、状況が変化した場合には要注意です。
その状況の変化の結果、オフサイドの反則をしたチームとは異なるチームが有利な状況が発生したということであれば、それを基にアドバンテージを採用することは許されません。
あくまでアドバンテージとは、違反や反則が起きたまさにその時点で、プレーを継続させた方が有利な状況である場合に適用されるべきものです。
(「その時点」というものも幅のある概念ですが、時間経過に歯止めをかける趣旨です。反則後の選手の攻撃の意思もアドバンテージの判断資料になるのですから、ある程度の事後的判断は排除されません)
したがって、状況の変化を見て結果的に有利になったからアドバンテージを取るということは、アドバンテージルールが本来要求しているものとは異なるのであり、許されないジャッジです。
よく「オフサイドはアドバンテージできないと審判の方が言ってました」という人は、このような状況の変化がある場面を事例として質問しているため、「その場合にはアドバンテージは採れない」と言われているのだと思われます。
yahoo知恵袋などでいろんな方が回答していますが、この点を分けて理解しないといけません。
3:「副審は、オフサイドと判定したならば、まず旗を上げる。」という競技規則の記載があるから、アドバンテージは採れない。
回答:これは明確に誤りです
既述ですが、競技規則には、「主審は副審の旗を必ず採用しなければならない」という記述はありません。
実際上、副審の旗を採用しないことによる判定に対する不信感という試合運営上の不利益と、オフサイドのアドバンテージをとるということを天秤にかけ、前者を取るべきとしている方が多いからアドバンテージを採用していないことがあります。
それ自体は正しいと思います。
しかし、ルール上オフサイドにアドバンテージを採用できるかどうかということと全く別問題であるということを理解していただきたいと思います。
4:「偉い人(1級、2級やインストラクターなど)にオフサイドにアドバンテージは採れないと言われたから」
回答:根拠になり得ません。
具体的にどういう理由で偉い人が言っていたか、説明していなければダメです。
その偉い人がお茶を濁していたのなら、その人の資質が疑われます。
考えられる理屈としては以下の場合があります。
- オフサイドにアドバンテージは採用されないという世界的な暗黙の了解があり、それはFIFAも認めている
- 国際審判員などがAFCやFIFAから、オフサイドにアドバンテージは適用されないと言われている=暗黙の了解が個人の審判から伝えられている
- あるリーグやカップ戦ではオフサイドにアドバンテージを適用しないという運用が確立している
このような理由であれば、私は納得します。
ルールは競技規則に記載されているものに限らず、少なからず私たちの暗黙の了解というものをベースにしていることがあるからです。それが根拠であると言われれば、そうですかと受け入れる態度が必要だと思います。
ただ、その大会の運用としてはそうなっているという理由では、それ以外の大会では適用されていないという事であり、きちんとした説明にはなっていません。
予期せぬ問題が起こる可能性があるため、安全を期して副審の旗を採用することにしている
こののような事態が考えられるからこそ、オフサイドにアドバンテージを採用しないということは、一定の合理性のある「運用」なのだと思います。
私がオフサイドのアドバンテージを採用した場面
少年の試合でしたが、以下の状況でした
- 1mの距離の相手のボレーシュートがGKの手の内に収まったが、その相手がオフサイドであるとして副審の旗が上がった
- その時点で、そのGKのチームのFWが前線に残っており、 パスが出れば相当程度高い確率で相手GKと1対1の状況が作ることができる状況だった
- GKはキャッチした次の瞬間、前線のFWを視野に入れていた(パスを出す意図が感じられた)
- GKは前線のFWまでパスを送ることのできるキック力を有していた
- GKからFWまでパスが通る可能性は極めて高かった。
GKが完全にボールをコントロールしており、その時点でFWにパスが出れば有利な状況であることが明らかであるという場合です。
もちろん、副審には旗を降ろすシグナルを出しています。
ただ、この点まで詳細に打ち合わせを行う状況ではなかったので、後で副審には自分の考えを伝え、副審も間違っていないということを伝えました。
また、お互いにとって不幸なことにならないように、アドバンテージのシグナルと共に、GKに対して「続けましょーう!!」と声をかけた方がいいと思います。
まとめ:結局ほとんど発生しない場面ですが…
なので、アクティブ審判員の方は、オフサイドのアドバンテージを採用することは避けた方が無難だと思います。
混乱が起きるようでしたら、オフサイドにアドバンテージを採用しないと決めていた方が、誤りが起こる可能性はなくなるので、その「運用」の方がいい場合があります。
しかし、それが「絶対」ではないということも、同時に理解していただきたいと思います。
以上