フットボールを整える

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JFA2019シーズン競技スタンダードとハンドリングの考慮要素

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JFA2019競技規則スタンダードを公開しました。

特にハンドリングのファウルに絞って、考え方を整えてみます。

JFAの2019シーズン競技スタンダード

動画の50秒くらいからハンドリングに関する映像があります。

最初のシーンの解説は、前々から上川さんがJリーグ公式の場で言っていたことを改めてJFA公式の場で明確化したということになります。

ワールドカップアジアカップのハンドリング

これに対して、ロシアワールドカップアジアカップに現れた事例では、JFA公式の動画の最初のシーンでノーファウルとされていたような行為はハンドと認定されていました。

その判定の競技規則上の整合性はともかく、過去の大会ではそのような判定がなされていたというのは事実です。それが大会の基準として共通理解があったのかは分かりませんが。

JFAのハンドリングの基準と過去大会の違い

JFAの基準は、「意図的に」というハンドリングのファウルの要件にある文言を日常的な意味としても理解しやすいものになっていると言えます。

先述の2大会は「体側から腕が離れているかどうか」を重く見ていたのに対して、JFAの基準は「自然な腕の位置或いは動きであるかどうか」を重視していると言えるでしょう。

「自然な腕の位置」というのは、複数あるハンドリングの考慮要素の一つです。

競技規則上の考慮要素とJFAの細分化した考慮要素

サッカー競技規則2018/2019

ボールを手または腕で扱う

競技者が手または腕を用いて意図的にボールに触れる行為はボールを手で扱う反則である。

次のことを考慮しなければならない:

ボールの方向への手や腕の動き(ボールが手や腕の方向に動いているのではなく)

・相手競技者とボールの距離(予期していないボール)

・手や腕の位置だけで、反則とはみなされない。

以下略

JFAはハンドリングになることの理由として、以下のような説明をしていました。

  • 腕が自然な位置にある⇒手や腕の位置
  • 近い距離からボールが蹴られている⇒ボールを予期できたか
  • ボールを避ける時間的な余裕が無い⇒ボールを予期できたか

ここから、実際上運用されている考慮要素は以下のように整理されます。
私見です。詳しくはハンドの考慮要素を考える:サッカーロシアワールドカップ2018からの教訓 - フットボールを整えるを見てください)

  • 手や腕の位置
  • ボールの方向への手や腕の動き
  • ボールを予期できたか

なお、競技規則上の考慮要素は限定列挙であるとは思えず、例示列挙であると解釈すべきであるから、考慮要素はこれらに限らないハズです。

海外での競技規則の議論

こちらでは『「不自然な腕の動き」が競技規則の一部になるべきでは?』、『攻撃側に限って大きなチャンスに繋がったり得点になったりした場合には、不注意によるハンドプレーも処罰されるべきでは?』といった議論がなされています。

「大きなチャンスに繋がったり得点になったりした場合」とは「利益を得た場合」と言い換えることが可能です。現行規則には無い考慮要素ですが、逆に考慮してはいけないと排除しているかというと、それは分かりません。

次項からは具体的なシーンから判断していきます。

アジアカップ吉田麻也のハンドリングはJFA基準だと?

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吉田がハンドリングのファウルを取られたのはベトナム戦とカタール戦の2回。

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攻撃の場面と守備の場面とがありました。

これはどう判断されるのでしょうか?

カタール戦の吉田のハンド:自然な位置?

カタール戦の吉田の腕の位置は「自然な腕の位置或いは動作」で説明がつくでしょうか?吉田のヘディングの際の左腕の動きは、ヘディングをする者としては自然なものではないでしょうか?

JFAの基準では、ファウルにならないという方向になります。
※必ずファウルにならないということではない

しかし、これがハンドリングのファウルになってしまうことにはさほど抵抗感がないと思います。私も、これはファウルにするべきだと思います。

では、なぜ「ファウルにするべき」と思うのでしょうか?

それはシュートを防ぐ形になっている=「利益を得ている」からではないでしょうか?

もちろん、競技規則上は利益を得ているか否かをハンドリングのファウルの考慮要素とすることを明示していません。(考慮要素としてはいけないとも書いてないが、この場合は「意図的に」のみを要件としてることとの整合性が問われる)

ただ、現場のレフェリーの判定を顧みると、「利益を得たか」を考慮しているのではないかと思わざるを得ない場面をそれなりに見かけます。

現行の競技規則に沿う形で吉田のプレーをファウルにする際の説明としては、「シュートコースになり得る位置に腕を配慮なく掲げた」というものになると思います。

要するに「配慮の有無」は勘案すべき考慮要素として排除されてないだろうと解釈するということです。

過去2大会は「体側から腕が離れているかどうか」を重視すると書きましたが、単に離れている腕に当たっただけでファウルになるのはおかしいので、配慮なく」という状況であればファウルにするという運用(基準として明示されているかはともかく、現場の判定がそうなっているという意味で)がなされているだろうという分析をワールドカプについて行いましたので、この説明に引っかかる人はぜひとも読んでください。

ベトナム戦の吉田のハンド

  1. 腕の位置はヘディングをするときのものとして自然な位置にある
  2. 腕がボールに向かっているのではなく、ボールが腕に向かっている
  3. ボールはスピードがあり、腕に当たることを予期して避けることは困難
    ※一般に競り合いの中でのヘディングは思い通りにならないことが多い現実からこう評価してます

これだけを見ると、どう見てもファウルを否定する状況が揃っています。紹介されたJFAの基準を機械的にそのままあてはめると、ベトナム戦の吉田はノーファウルとなったでしょう。

ボールの軌道が腕に当たったことで大きく変化した場合

ベトナム戦の吉田の事例が、自然な位置にある腕に当たってボールの軌道が大幅に変わったと仮定した場合はどうなるか?

この場合にはどう判定し、説明するのでしょうか?

この場合にノーファウルの判定をするレフェリーはおそらくゼロでしょう。
JFAもノーファウルにはしないでしょう。

それはどう説明すれば良いのでしょうか?

攻撃側の選手の自業自得という説明

一つは「今回はシュートにDFが当たった場面ではなく、自らシュートをした攻撃側の選手が自分の腕にボールを当てた場面である。シュートを打ったということは、ボールの飛ぶコースをコントロールできる立場にあるのだから、自分の腕に当たらないようにシュートすることは可能である。したがって、それをしなかったのだから意図的にボールを手で扱ったと言える」というような説明があり得ると思います。

これは上記の3番目の「腕に当たることを予期」できたかどうかの話になります。現行競技規則に寄り添った説明だと言えるでしょう。

しかし、これは「意図的」という日常的な意味からはかなり外れてしまっています。むしろ「過失により」という説明の方がしっくりくるでしょう。
※ただ、「過失」と言う文言を用いてしまうと、過失をも捕捉してしまうということになりかねない。それはハンドリングのファウルが多くなりすぎてしまうのではないでしょうか?

また、この説明方法は攻撃時には使えますが、守備時には使えません。

利益を得たという説明

もう一つは「ボールの軌道が変ったことによってGKが反応困難にしたためにゴールとなった、という利益を得た」という説明。これは現行の競技規則の規定からは外れる説明ですが、すっきりとした説明ではないでしょうか?(この場面に限ってのことですが)。

「利益を得たか」という判断手法は「結果」がサッカー精神に反するという思想であり、「意図的か」という判断手法は「行為」が」サッカー精神に反するという思想であると言えます。

今のところは(文言上は)後者の視点のみが競技規則に記述されています。

しかし、暗黙のうちに「結果」をも考慮しているのかは不明です。 

配慮に欠けるという説明

現行の競技規則に沿い、更に簡潔なものに再構成するとすれば、「ボールをヘディングでシュートする場合、シュートコースになり得る位置に腕を出す行為は(ハンドリングのファウルになる事に対して)配慮が無いから意図的とみなす」というようなものになると思います。
※繰り返しますが「配慮なく」という説明は私の私見に過ぎません。

「配慮はあったか」を考慮要素とした場合、守備側のプレーの説明にも使えます。

ハンドリングのファウルの基準や考慮要素は議論されるべき

現行の競技規則も、JFAの基準も万能ではありません。

よりサッカーにとって好ましいハンドリングのファウルの基準・運用・説明方法は、どのようであるべきなのか。

一応示された基準を守りつつ、この点について考えを巡らせるべきなのかもしれません。

以上